足跡の中を旅してる #007 / スチャダラパー "ヒマの過ごし方"
日本語ラップが一番最初にブームを迎えた時期、スチャダラパーやEASTEND×YURIが先頭に立ってヒットチャートに爪痕を残していた頃のこと、いわゆる日本語ラップの重鎮たちや*1、その周辺に居たリスナーやライターたちの多くは、彼らの「おもしろおかしいリリック」「とっつきやすい風貌」「ポップな音作り」といった部分を「セルアウトだ」と評し、おおむね無視や黙殺に近いスタンスを取り、勝手に「J-RAP」というレッテルを貼り、「(自分たちのやっている)ホンモノとは違うやつ」という主張をしていました。
しかし、個人的には彼らの最大の功績や発明は、そういった「おもしろおかしいリリック」「とっつきやすい風貌」「ポップな音作り」といった部分ではなく、「普通の人の普通の生活をリリック(歌詞)に乗せてラップする」といった部分ではなかったのか?と感じています。
それまでは日本語ラップといえば当然のようにワルで硬派でテクニカルで、何かといえばパーティだの、俺はこんなにワルいだの、夜遊びだの、ワックMC皆殺しだの、そういった世界観でしかラップは存在し得ない価値観だった世界で、彼らは当然のように「ゲームが好き」だの「やらなきゃいけないことがあるのにめんどくさい」だの「遅刻しそうだけど、どう言い訳しようか」だの、一般の生活を送る普通の人の普通の出来事やトピックを、シンプルに中毒性の高いブレイクビーツに乗せて軽々とラップしていきます。
そんな中でもこの曲は出色の出来で、「ヒマ」についてひたすら考え、歌い続けるだけの曲。
なぜいそがしくするのだろう
何もしないでいられないのだろう
何もしない不安それは何だ
恐いのはただただある時間
縮める事も のばす事も
ましてや 消すことも不可能
(中略)
かなり思いがけない事だが 人は
必死で ヒマをつぶしてるだけだ
ヒマであることに対して「ヒマだねーってよく言われる」「まずいい意味では使われない」と感じつつ、そこからひたすら考えを巡らせ、最終的に「ヒマを生きぬく強さを持て」とまで言い返してしまう、強さ。
当時「ホンモノ」を自称していた人達は彼らの「自分たちと同じでない」部分に拒否反応や嫌悪感を示し、「同じでないことは良くないことだ」とDIsしたものの、彼らにしたらそんな声は届きようもなかったのかもしれない。なぜならモノの捉え方が、まるきり違うから。
考え過ぎかもしれないけど、そんな風にさえ思えてくる曲。