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さと「フラグタイム」/他人に必要とされたいくせに、うまくいかない人に。

最近読んだマンガの中で、少し前に完結巻になる2巻が出た、さとさんの「フラグタイム」がメチャクチャ面白くて、思ってた以上にグッと来てしまいました。とにかく、すごく良かった。

ホントにすごくいいと思ったので、宣伝がてら紹介するようなエントリを書きたいと思ったんですが、極力、話の中身には触れないように書きたいので(なんせ今回は本当に「この作品を語りたい」よりも「とにかく買われて読まれて欲しい」という気持ちの方が強いので!!!)、基本的に話の内容については相当にボヤかして書く、ある意味で要領を得ないエントリになると思います、ご了承いただければ。

 

この作品のものすごくザックリしたあらすじを自分が説明すると、こんな感じです。

主人公は「人と関わることで自分が何かしら傷つくことが嫌になり、今では誰とも関わらず、友達も作らずに(作れずに)、自分だけの世界を生きている女の子」の森谷美鈴(以下、森谷さん)と、もう一人の主人公的な存在の「誰からも好かれているクラスの中心的存在の美人で、でも本心では何を考えているのか判らない、ミステリアスな面もある女の子」の村上遥(以下、村上さん)。ふたりはある出来事をきっかけに距離を縮め、やがて村上さんの提案で「付き合う」ことになる。

『特に取り柄のない、自己評価も低いダメな主人公が、いきなり自分の住む世界の中でトップクラスの存在に気に入られ、一緒に行動することになり、主人公が成長して、見る世界が変化していく』という道筋を辿っていくお話は割とありふれており、このマンガも(実際には「森谷さんは時間を止められる」「その時、村上さんだけにはその能力が通用しない」という特殊な設定がある以外は)割とスタンダードな筋を辿るお話であるように思われます。

ただ、このマンガは、けしてそのパターンの「森谷さんが村上さんに影響され、過去の自分を脱ぎ捨てて成長していく物語」ではないように自分は感じました。物語は進むにつれ、「森谷さんの対人恐怖がほんの少しずつ克服されていく」ところから「そもそも、村上さんは何故ここまで誰からも好かれようとするのか」にテーマが移り、最終的にふたりは強く衝突し、互いに今まで言えなかった本音をぶつけ合います*1。森谷さんは村上さんの誰からも好かれようとして生きる姿勢を、村上さんは森谷さんの誰とも関わらずに自分だけで生きようとする姿勢を、互いにエグいほど、本当に読んでいて心が痛くなるほど直球の言葉で表現して「逃げている」と批判し合います。

でも、その喧嘩の最後に森谷さんは言います。「好きだよ」と。

そして、その無条件の「好きだよ」を機に、今度は、森谷さんは村上さんが持つ、自分には出来なかった、他人のために、自分が住む世界のために努力を惜しまない姿勢を、村上さんは森谷さんが持つ、他人から好かれるかどうかに拠らないで行動できる生き方を認め合っていくことになり、エンディングへと向かっていきます。

 

個人的に『特に取り柄のない、自己評価も低いダメな主人公が、いきなり自分の住む世界の中でトップクラスの存在に気に入られ、一緒に行動することになり、主人公が成長して、見る世界が変化していく』手の話はそこまで好きではなくて、そこには特に取り柄のない、自己評価も低いダメな主人公」に最初は共感していた自分が、最終的には物語の主人公だけが立派に成長して、自分の世界を変えていき、結局は読み手の自分は取り残されて、「自分も変化できないなら価値の無い存在のままだ」という暗に否定されたようなメッセージを送られた気持ちになり、なんか悲しくなる時があるからで。とはいえ、自分自身がそういうタイプの主人公にばかり共感してしまう性格で、それが問題なのも自覚しているゆえに、「ダメなタイプの人間が集まって、優秀なタイプの人間の揚げ足を取ってバカにして悦に入ってる」タイプの世界観のものも好きではなくて、自分でもややこしい性格だとは思っているのですが。

そういう意味で、この作品のラストでは「誰ともうまく関われないタイプ」の代表である森谷さんと、「誰とでもうまく関われるタイプ」の代表である村上さんが、互いに内面に持っている欠点の部分や汚い部分も晒け出される、かなり直球でキツい言葉で互いを責める形で表現されており、どちらのタイプに共感する読み手にしても痛い思いをすることになりつつも、その後で今度はどちらのタイプもが、それぞれにもっと深い内面に隠しているはずの寂しさや、「本当はもっと誰かに認められてもいいのに」と思っているはずの、汚くないはずの部分もすごくストレートでハッとする言葉で表現されていて、どちらのタイプに共感する読み手にも、それこそ人によっては強い癒やしや「許し」さえ受けるのではないか、と思います。その優しさ、けしてどちらかのタイプに立ち、どちらかのタイプの生き方を肯定する代わりにもう片方をないがしろにするのでなく、どちらのタイプも両価的に肯定しながら、最終的には必要な程度の変化を促していく描き方に、個人的にはめちゃくちゃグッと来てしまいました。

 

どうしても「時間停止能力」「女の子同士の恋愛」「パンツ」といった要素が前に出て語られがち、話題になりがちな作品ですが、少なくとも自分には本質はそっちよりも、今回のエントリで上げた部分にあるんじゃないかなあ、と思ったりしています。

そんなこんなで「フラグタイム」、「人と関わること」の何かしらで悩んでる人には、すごくオススメです!

 

フラグタイム(1) (少年チャンピオン・コミックス・タップ!)
 

  

フラグタイム 2 (少年チャンピオン・コミックス・タップ!)

フラグタイム 2 (少年チャンピオン・コミックス・タップ!)

 

 

*1:余談ですが、この時の森谷さんの「すごい」「これが村上さんの」「本当の」「顔なんだ」「だめだ」「うれしい」って内面描写、めちゃくちゃ好きです。