「エンタの神様」と、テレビが見せる、解けない嘘のこと

「エンタってヤラセなんだぜ」って言う人は多い。

なんとなく「エンタの神様という番組は、ヤラセをしている」みたいな認識は、一部のテレビやお笑い好きに限らず、割と広いレベルで持たれているようにも思われる。

 

エンタの神様」という番組について、何か言葉にすること、あの番組について好きか嫌いかや、自分はどう見ているかを人前で言葉にするのは、とても難しいと思う。ましてや、お笑いが好きな人なら特に。

「番組の演出が過剰だ」「芸人さんに本来でないキャラやネタを強要する」「そもそも、芸人さんやお笑いに対して愛を感じない」などの、いわば紋切り型の批判で悪く言うのもありきたりすぎて、なんか今更というか、わざわざ言う割には浅い感じがする。

かといって「世に出てなかった芸人さんを多く輩出した」「実際にあの番組からブレイクして成功した芸人さんも多い」「ネタ番組が少なかった時代に毎週コンスタントにネタをオンエアした功績は見逃せない」みたいな言葉で擁護するのも、どこか気が引ける。確かに、あの番組には実際にはそういった面はあるのだが、それにしても多くの視聴者にとってあの番組の印象は、トータルでは好意的には見れない、どうしたって不快感が拭えない場面が多すぎた。

なにしろ、功も罪もありすぎるのだ。一言で「どう思う?」と言われて、こう思う、と返せるような番組ではないと思う。

 

昨日の夜、久しぶりに日本テレビで「エンタの神様」の特番をやっていた。

レギュラー放送自体は終了して久しいが、その後も年に数回のペースで特番という形で放送を継続しているし、内容自体はそう大きく変化していない。そして、多くの人がきっとそうであるように、自分もブツブツと思うところはあっても、結局「いまどきテレビでネタ番組が見れる」という魅力に抗えず、ほとんど毎回見てしまってる。そんな感じだ。

昨日も途中から見てたけど、NON STYLEの漫才で、明らかにネタの途中で不自然にカットされ、いきなり井上さんのどアップで「もうええわ」というシーンに繋がれ、そのまま終わってしまった時に急に心が折れて、見るのをやめてしまった。ひどい編集だと思ったけど腹は立たなかった。自分の中で、この番組に対する期待もその程度だからだ。

 

そんなわけで、日が明けてから録画で残りを見ていたんだけど、カンニング竹山さんのネタというか漫談というか、とにかく竹山さんの部分だけ、普段のエンタとは若干毛色の違う、不思議な感じの内容になっていた。

エンタの神様には、いわば「ハプニング枠」がある。カンニングに始まり、クワバタオハラに継がれて、あと何組か誰か居たような気がするけどもう名前も覚えられていないような、そんな枠を担当してきた人たち。

彼らは「エンタの神様」の初登場時に、舞台上でネタを放棄してケンカをしたり、急にウンコをしようとしたりして問題を起こし、次回出演時にはその謝罪をするとみせかけ、また問題を起こす、といった流れを見せる担当の人たち、のような枠。

言うまでもなく、プロの芸人がエンタの神様のステージに立てただけで急に舞い上がって本当にケンカをするわけがないし、ウンコをするはずがない。そして何より、「エンタの神様」という番組は、大量に収録したネタを、ぶつ切りに加工して1時間のプログラムにするような、良くも悪くも超強力な演出のもとに管理体制化された番組だ。芸人側から持ち込んだハプニングをそのままぬけぬけと放送するなんて、万に一つもありえない。

それを人によっては「ヤラセ」と呼ぶだろうし、人によっては「演出」と呼ぶだろう。ある人は「悪質な番組だ」と言うだろうし、ある人は「芸人さんも納得の上で出演しているのなら、いいのでは」と言うだろう。

何にせよ、エンタの神様というのは、その辺の虚と実の境目を縫うように走ってみせる、その過程では、ただの悪質なヤラセやサクラとしか思えない場面や、大テレビ局のゴールデン番組という立場を使った若手芸人へのパワハラとしか思えないようなひどいネタを強要している場面も見せてきたし、それでも、常にそれに対しての批判の声を嘲笑うかのように新しい、虚実ないまぜのネタを作って見せ続ける。そんな番組だ。

 

今回の竹山さんのネタは、そんなカンニングの「エンタの神様」での出演の歴史を当時のVTRで順番に振り返り、「舞台でウンコをしようとした事件」や、その次の回での舞台上での謝罪からのケンカなどがダイジェストで流れ、最後に「色々ご迷惑もお掛けしたけど、この番組のお陰でカンニングはキレ芸とか呼ばれてどんどん売れていったんだよね、結果的には」という、番組への感謝でシメるような内容だった。

ここまではとても通常営業というか、とてもエンタの神様的だと思った。実際には「エンタの神様」にカンニングが出ている頃には既に「笑いの金メダル」にも出ていたはずだし、めちゃイケの「笑わず嫌い王決定戦」での大爆発はもっと手前にあったはずだ。本当にカンニングのブレイクはエンタの神様の手柄だったのかは、かなり怪しいところなのに、そこを自分で「この番組のお陰で…」という脚本を用意し、それを芸人自身に、自分で用意したネタのように言わせる。

この図々しさや悪どさこそが、エンタの神様の真骨頂であり、10年以上も番組が続く所以でもあるのだろう、と思う。

 

しかし、この時の竹山さんの出番はそこで終わらなかった。

一瞬の話が途切れた間を挟んで、竹山さんが再び話し始める。

さあ、そして今日ですよ。今ね、僕あの年に1回、「放送禁止」っていう自分の単独ライブをやってるんですよ。そこでは2時間ぐらいずーっと自分の色んな事をお話するんですけどぉ…

再び少し間があいて、ニヤニヤした竹山さんが再び口を開く。

 …こっから完全にアドリブやります。(客席がざわつき始める)

いいよねー!五味さん*1いいよねー!

こっからは、スタッフにも言ってないことやります!(客席が大きくどよめく)

使う使わないはスタッフが決めろ!俺のエンタはこんな感じよ!昔から!

これが、アドリブってやつですよ!行くぞ!

…前と一緒のことやります。

(おもむろに服を脱ぎ出す、客席から悲鳴が上がり始める)

これがテレビですよ。これがテレビ。

ここから竹山さんは黙々と服を脱ぎ続ける。

途中で、詳しく聴き取れないけどスタッフの囁き声で「竹山さん、竹山さん、○△□×…」と話しかけているのが入っている。それに対して、竹山さんはヘラヘラ笑いながら

 えー?大丈夫!大丈夫やって!お前らが学生の頃から俺はずーっとテレビやっとるんやから!

と返す。そしてそのままシャツをを脱ぎ、上半身裸の状態でズボンのベルトに手をかけ、続けて

 ちゃんと使えるようにして渡してやるから!

(ここでベルトを外し、靴を脱ぎ捨てる。客席からまた悲鳴が上がる)

「えー!」ってお前らのお父さんも家帰ったらこんな格好しとるやろが!

そしてそのままパンツ一丁になった竹山さんは再びピンマイクと送信機を持ち、画面に向かって語りかける。

よし。(音声)入ってるー?大丈夫?

いいかー!俺はね、みんなに言いたいことがあるのよ!

だから、いっちばん好きな格好でみんなに言ってやりますよ!

あのね?おい、3カメ俺映せ!まず映せ!全体映せ!

俺の顔映すな(画面がズームインされ、バストアップの竹山さんが映りそうになる)、全体映せ!(画面がズームアウトされ、パンツ一丁の竹山さんの全身が映る)。そう!

これがテレビよ!!

今起こってることを映すのがテレビというメディアなんです!だから、テレビは面白いのよ!

テレビには夢があるの!

そしてテレビを見てるちびっこ諸君!君らにもちゃんと言いたい!

おじさんはね?約10年前、このステージでウンコをしようとしてね、無我夢中でウンコをしようとして、夢を掴みました!…だから俺、何が言いたいかって言うと、今きみはやりたいことがあるかもしれない、夢中になってることがあるかもしれない、それをね、必死でやんなさい!一生懸命やんなさい!

こんな姿で、偉そうに言ってるけど、こんな姿で偉そうに言えること、これがテレビ、テレビには夢があるってこと!

どうしてもね、今日はそれを伝えたくて、ここにやってまいりました。

みなさん、ごめんなさいねなんか。(以下略)

ここまで、若干のカメラの視点は動くことはあれど、ほぼ終始して画面にはパンツ一丁のオジさんが口角泡を飛ばす勢いで喋り続けている。エンタの神様特有の字幕テロップもなければ、画面右上にネタのタイトルも表示されず、ただ左上に「エンタの神様」という番組名と、ステージの上にパンツ一丁の竹山さん。それだけがノーカットで数分間映り続けている。そして、

これがテレビよ!!

今起こってることを映すのがテレビというメディアなんです!だから、テレビは面白いのよ!

テレビには夢があるの!

と叫んでいる。あの、芸人が持ち込んだネタを却下して作家が用意したネタを演じさせるのが日常で、収録したネタをガシガシとカットしながら番組全体のリズムを作っていく「エンタの神様」のステージで、その番組で起こしたというハプニングでブレイクしたという、カンニング竹山さんが、である。

ここまで来ると、もはや虚も実も、その境目も、それを探ろうとする気さえも必要としないようなリアリティを感じた。なんか、単純に見ていて、ヤラれてしまった。単純にパンツ一丁のオジさんは格好良かったし、何かをテレビからお茶の間に伝えたような気がした。

何より、テレビや映画というメディアを使って「虚実の境目を見せる」という試みは今までにも数知れず行われてきたはずだ。フェイク・ドキュメンタリー的な映画や番組は多数存在するだろうが、そういった番組は通常は衛星放送や、単館上映の映画や、NHKの昼間のような、そんな多くの人が見る形ではめったに放送されない。

そこに、この番組は堂々と全国放送のゴールデンの、「SMAP×SMAP」にぶつけるような時間に、どんなに少なく見積もっても数百~一千数百万人は見ていたであろう時間に、こんなカオスを放り込んできた。

あれを見た多くの人はどう思ったのだろうか。

やっぱり「な、エンタってヤラセなんだぜ」って言ったんだろうか。それとも、竹山さんに心打たれたのだろうか。そして、あのネタは本当に途中から「完全にアドリブ」だったのか。それとも、今回も全ては演出の手の内だったのか。

そんな、「解けない嘘」こそがとてもテレビ的で、民法の大テレビ局的で、お笑い番組の役割としてあまりにまっとうで、夢があるな、と思ってしまった。よりにもよって、「エンタの神様」で。そんな数分間でした。

*1:同番組の総合演出の人の名前